日本の食卓に欠かせない調味料「醤油」。
普段何気なく使っているこの液体に、3000年以上もの壮大な歴史と、驚くほど多様な種類があることをご存知でしょうか?
一口に「醤油」と言っても、その風味や用途は様々。
素材の味を活かすものから、料理に深いコクと照りを与えるもの、さらには健康志向に応えるものまで、選び方ひとつで料理の美味しさが格段にアップします。
この記事では、そんな奥深い醤油の種類と醤油の起源、そしてあなたにぴったりの醤油を見つけるための選び方を徹底解説します。
今日からあなたも「醤油マスター」への第一歩を踏み出しませんか?
醤油の壮大な歴史:3000年以上続く日本の味のルーツ
日本の食文化に深く根付く醤油ですが、そのルーツははるか遠い古代中国にまで遡ります。まさに「食のタイムカプセル」とも言える、醤油の歴史を紐解いていきましょう。
「醤(ひしお)」から始まった日本の醤油
醤油の原型は、約3000年以上前の古代中国で生まれたと言われる「醤(ジャン)」にあります。
これは、肉、魚、穀物を塩と共に発酵させて作る保存食で、現代の味噌や醤油、魚醤などの調味料の祖先にあたります。
液体化した「液体の醤」が、後の日本の醤油へと発展していくのです。
日本にはいつ頃「醤」が伝わったかは定かではありませんが、大宝律令(701年)には、宮内省で醤油に似た「醤(ひしお)」が作られていたという記述が残っています。
奈良時代にはすでに生産されていたようですが、これは調味料というよりも、そのまま食べる「なめもの」の一種として食されていたと考えられています。
現代の醤油への進化と普及
現代の醤油の原型となる調味料「溜(たまり)」が日本に登場したのは、鎌倉時代のこと。
これは、味噌を製造する過程で桶の底にたまった液体が非常に美味しいと発見されたことが始まりでした。
現在のたまり醤油の製法へと繋がる重要な発見です。
戦国時代には、大豆と小麦を原料とする、より現代の醤油に近いものが誕生します。
そして江戸時代初期から中期にかけて、大豆と炒った小麦をほぼ同量使用し、塩水と混ぜて醪(もろみ)とする日本独自の醤油製法が確立されました。
この時期に、現在の赤く澄んで香り高い醤油が完成し、江戸時代には関東で「濃口醤油」、関西で「淡口醤油」がそれぞれ発展を遂げます。
保存性と運搬のしやすさも手伝って、醤油は全国へと普及していったのです。
JAS規格で定められた5つの主要な醤油の種類を徹底解説!
一口に「醤油」と言っても、その種類は多岐にわたります。
まずは、日本農林規格(JAS規格)によって定められている主要な5種類の醤油について、それぞれの特徴と最適な使い方を見ていきましょう。
濃口醤油:日本の食卓の定番、万能調味料
日本の醤油生産量の約8割を占める、最も一般的で親しまれているのが「濃口醤油(こいくちしょうゆ)」です。
塩味、旨味、甘味、酸味、苦味のバランスがとれた万能な味わいが特徴。
深い旨味とまろやかな甘みを持ち、和洋中問わずあらゆる料理に幅広く使えます。
迷ったらまず濃口醤油を選べば間違いありません。
原材料: 大豆と小麦をほぼ同量使用
塩分濃度: 約16~17%程度
主な用途: 煮物、炒め物、かけ醤油、つけ醤油、隠し味など、どんな料理にも。
おすすめ濃口醤油ブランド
キッコーマン 特選丸大豆しょうゆ: 高品質な丸大豆を使用し、和洋中を問わず様々な料理に合う万能な濃口醤油です。
フンドーキン 吉野杉樽天然醸造醤油: 吉野杉の木樽でじっくり発酵・熟成。
塩味が控えめで、香り高い深い味わいが特徴です。
淡口醤油:素材の彩りを活かす、関西生まれの優等生
濃口醤油に比べて色が薄く、香りが控えめなのが淡口醤油(うすくちしょうゆ)。
関西で生まれたこの醤油は、素材本来の色や風味を活かしたい料理に最適です。
一見すると色が薄いため塩分が低いと思われがちですが、実は濃口醤油よりも塩分濃度が高め(約18〜19%程度)なのが特徴です。
これは、発酵・熟成を穏やかにするために食塩が多く使われているため。
原材料: 大豆と小麦をほぼ同量使用
塩分濃度: 約18~19%程度
主な用途: 煮物、お吸い物、茶碗蒸し、だし巻き卵、お漬物など、素材の色や出汁の風味を大切にしたい料理。
おすすめ淡口醤油ブランド
吉村醸造 サクラカネヨ 薄口醤油 上淡: 軽やかで芳醇な香りとすっきりとした味わいが特徴。
だしのような風味と甘みも感じられます。
井上醤油店 井上こはく: 国産丸大豆と小麦を使用し、合成添加物を使わず甘酒をふんだんに使った上品で爽やかな甘みが特徴です。
溜醤油:濃厚な旨味ととろみ、隠し味のプロ
主に中部地方で造られる**溜醤油(たまりしょうゆ)**は、その名の通り色が濃く、とろみと濃厚な旨味、そして独特の香りが特徴です。
他の醤油に比べて小麦の割合が非常に少なく、大豆の旨味成分がぎゅっと凝縮されています。
加熱すると美しい照りや赤みが出るため、照り焼きや佃煮など、見た目にも美味しさを引き立てる料理に重宝されます。
近年はグルテンフリーの需要から海外への輸出も増えています。
原材料: 主に大豆のみ、またはごく少量の小麦を使用
塩分濃度: 約16~17%程度
主な用途: 寿司、刺身、照り焼き、佃煮、魚の蒲焼きのたれ、隠し味として。
おすすめ溜醤油ブランド
イチビキ 超特選おさしみ溜ボトル: 刺身や魚の蒲焼き、照り焼きにおすすめの溜醤油です。
再仕込醤油:二度醸造が生む、贅沢な深い味わい
山口県柳井地方で生まれた「再仕込醤油(さいしこみしょうゆ)」は、別名「甘露醤油」とも呼ばれます。
その名の通り、他の醤油が麹を食塩水で仕込むのに対し、再仕込醤油は生揚げ醤油(火入れをしていない醤油)で麹を仕込むという、二度醸造という贅沢な製法で作られます。
そのため、色、味、香りともに濃厚で深い旨味が特徴。濃口醤油の2倍の原材料と熟成期間を要するため、まさに「醤油の芸術品」と言えるでしょう。
原材料: 大豆と小麦をほぼ同量使用
主な用途: 刺身、寿司、冷奴など、主に卓上でのつけ・かけ用。その濃厚な風味を直接味わうのがおすすめです。
白醤油:淡い琥珀色に秘められた、繊細な甘み
愛知県碧南市で生まれた「白醤油(しろしょうゆ)」は、淡口醤油よりもさらに色が淡く、美しい琥珀色が特徴です。
その味は淡白ながら甘味が強く、ほんのりと麹の香りがします。
国内生産量は非常に少なく、醤油全体の1%未満と希少価値の高い醤油です。
素材の色を損なわずに風味を加えたい料理や、上品な味わいを求める際に重宝されます。
原材料: 主に小麦を主な材料とし、大豆の割合は非常に少ない(大豆1割に対して小麦9割程度)
主な用途: お吸い物や茶碗蒸し、うどんつゆ、漬物など、素材の色を活かしたい料理。白だし(白醤油に出汁を加えたもの)の原料にもなります。炊き込みご飯に使うと醤油の色がつかず、上品な仕上がりに。
おすすめ白醤油ブランド
日東醸造 足助仕込三河しろたまり: 大豆を使わず小麦を主原料とした「しろたまり」。塩味と共にしっかりとした甘みが感じられます。
湯浅醤油 蔵匠 白搾り: 大豆、小麦、食塩のみで作られており、素材の色を活かしつつ、うまみ成分をしっかり含んだ上品な白醤油です。
知っておきたい!主要5種類以外の多様な醤油
JAS規格の主要5種類以外にも、地域性や特定のニーズに応える形で、様々な醤油が存在します。
食の多様化が進む現代において、これらの醤油もぜひチェックしておきたいポイントです。
だし醤油:これ一本で味が決まる!時短の強い味方
昆布や鰹節、煮干しなどのだしを加えて調味されただし醤油は、まさに「万能調味料」。
これ一本で料理の味が決まる手軽さから、共働き世帯や単身世帯の増加による調理時間の短縮ニーズと相まって、近年人気が急上昇しています。
深い旨味と風味が特徴で、減塩タイプも増えており、健康志向の方にもおすすめです。
主な用途: 煮物、炒め物、麺類のつゆ、卵かけご飯、和え物など。
おすすめだし醤油ブランド
鎌田醤油 だし醤油: だしの旨味が特徴で、煮物、麺類のつゆ、卵かけご飯など幅広い用途におすすめです。
減塩醤油:健康志向に応える賢い選択
「塩分は控えたいけれど、醤油の風味は楽しみたい」という方に最適なのが減塩醤油です。
通常の醤油から塩分をカットしつつ、風味や旨味を損なわないよう工夫されています。
健康意識の高まりから、多様なメーカーから高品質な減塩醤油が販売されています。
主な用途: 普段使いの醤油として、塩分摂取量を抑えたいあらゆる料理に。
グルテンフリー醤油:アレルギー対応・健康志向の新常識
小麦アレルギーを持つ方や、グルテン摂取を控えている方のために開発されたのがグルテンフリー醤油です。
一般的な醤油が大豆と小麦を原料とするのに対し、グルテンフリー醤油は小麦を使用せず、丸大豆と塩のみ、または米やごま、あわ、ひえ、きびなどの穀物を使用して作られます。
通常の醤油と遜色ない味わいのものも多く、健康志向の選択肢として注目されています。
主な用途: 小麦アレルギー対応、グルテンフリー食実践者向けに、通常の醤油と同じように幅広い料理に。
おすすめグルテンフリー醤油ブランド
イチビキ 小麦を使わない丸大豆しょうゆ: 丸大豆と食塩で醸造され、大豆本来の旨みが味わえます。
大正屋醤油店 お米から造った純米しょうゆ: 大豆も小麦も不使用。島根県産のお米、酒粕、天日塩を原料としています。
オーガニック醤油:こだわり派に贈る、自然の恵み
有機栽培された大豆や小麦などの原材料を使用し、有機JAS認定を受けた工場で製造されたのが「オーガニック醤油(有機醤油)」です。
原材料だけでなく、製造工程においても化学合成添加物を使用しないなど、厳格な基準を満たしています。
昔ながらの木桶でじっくりと天然醸造されることも多く、素材本来の旨みが引き出された、芳醇な香りと奥深い味わいが特徴です。
主な用途: 原材料や製法にこだわりたい方、安心して食べたい方へ。
おすすめオーガニック醤油ブランド
ヤマサ醤油 有機丸大豆の吟選しょうゆ: 有機栽培大豆と自然乾燥の天日塩を使用し、まろやかなコクと旨みが特徴のロングセラー商品です。
海の精 国産有機 旨しぼり醤油: 国産大豆と国産小麦、天然水、海塩「海の精」を使用し、杉桶で1年以上熟成させています。
あなたにぴったりの醤油はどれ?目的別・醤油の選び方
多種多様な醤油の中から、自分にぴったりの一本を選ぶのはなかなか難しいもの。ここでは、目的や好みに合わせた選び方のポイントをご紹介します。
料理の用途で選ぶ
これが最も基本的な選び方です。
万能に使うなら:
まずは濃口醤油がおすすめです。日本の食卓の定番として、どんな料理にも間違いなく合います。
素材の色や出汁を活かしたいなら:
京料理や関西風の薄味料理には、色が淡く素材の持ち味を邪魔しない淡口醤油や、さらに色の薄い白醤油がぴったりです。
刺身や寿司、濃厚な味付けには:
大豆の旨味が凝縮されたたまり醤油や、二段仕込みで深い味わいの再仕込醤油が、素材の旨味を一層引き立てます。特に再仕込醤油は「かけ醤油」「つけ醤油」として、その風味を存分に楽しむのがおすすめです。
手軽に本格的な味付けをしたいなら:
だしが効いただし醤油を使えば、煮物や麺類、卵かけご飯などがこれ一本で美味しく仕上がります。
原材料・製法にこだわる
醤油の味は、使われている原材料や製法によって大きく変わります。
「大豆・小麦・食塩」のみのシンプルなもの:
添加物が気になる方は、シンプルな原材料表示の醤油を選びましょう。
丸大豆使用:
脱脂加工大豆よりも丸大豆を使用した醤油は、まろやかな風味と深みのある味わいが特徴です。
国産原料:
安心・安全にこだわるなら、国産の大豆や小麦を使用しているかどうかもチェックポイントです。
本醸造・天然醸造・木桶仕込み:
日本の伝統的な製法である「本醸造」は基本。加温せず自然の温度でじっくり熟成させる「天然醸造」や、微生物が住み着いた「木桶仕込み」の醤油は、より複雑で深みのある味わいが楽しめます。
健康志向で選ぶ
食の安全や健康への意識が高い方は、以下の点を考慮すると良いでしょう。
塩分を控えたい:
減塩醤油を選びましょう。ただし、淡口醤油は色が薄くても塩分濃度は高めなので注意が必要です。
グルテンを避けたい:
グルテンフリー醤油は、小麦アレルギーの方やグルテンフリー食を実践している方にとって必須の選択肢です。
オーガニックなものを選びたい:
「オーガニック醤油(有機醤油)」は、有機JAS認定を受けた原材料と製法で作られており、自然の恵みを安心して楽しめます。
最後に:醤油の多様性を食卓に!
醤油の起源から多岐にわたる種類、そして選び方まで、その奥深い世界を垣間見ていただけたでしょうか?
普段使いの濃口醤油はもちろんのこと、料理や気分に合わせて異なる種類の醤油を使い分けることで、いつもの食卓がさらに豊かになり、料理の腕も一段と上がるはずです。
今回ご紹介したブランドはほんの一部に過ぎません。
ぜひ、気になる醤油を手に取り、その香り、色、味わいを実際に体験してみてください。あなたにとって最高の「一本」を見つける旅を、心ゆくまでお楽しみください!
